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新型コロナで内定取り消し 「突然」は無効、金銭解決も - 日本経済新聞

Case:78 この3月に大学を卒業しました。4月から会社員として働く予定でしたが、「新型コロナウイルスの影響」で会社から内定を取り消すとの連絡を受けました。あまりに急な話で、途方に暮れています。法的に争う余地はあるのでしょうか。

世界中で新型コロナウイルスの感染が広がり、ついに我が国でも緊急事態宣言が発令されました。人の移動が制限される中で、急速に業績が悪化する企業は増えており、従業員の解雇や雇い止めの例が多数報じられています。残念ながら、新卒者の内定取り消しも耳にするようになりました。

■一方的なら「解雇」にあたる

まず、内定者は法的にどのようなポジションなのかを整理しましょう。内定者は企業に入社する前なので、労働契約は締結されておらず、使用者側は自由に内定を取り消すことができると考える人もいるかもしれません。

実は、労働基準法や労働契約法などの法律に「内定」という言葉はなく、解釈に委ねられています。この点で最高裁は「大日本印刷事件」において判断をしています。

そこでは、会社が採用内定を通知して採用内定者が誓約書を提出した段階で労働契約は成立しているが、実際に就労するのは卒業後の4月からということで「始期」が付いており、また、大学を卒業できなかったなどのやむをえない場合などには内定を取り消すことがあると内定通知で示されている場合には内定を取り消す権利(労働契約の「解約権」)を企業側が留保しているという意味で「始期付解約権留保付の労働契約」が成立しているものとしています。

採用の内定により労働契約が成立している以上、使用者による一方的な解約は解雇にあたります。そのため、労働契約法16条が適用され「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇」は権利の乱用として無効になります。

内定者が単位を落として大学を卒業できなかったわけでもなく、新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化が内定取り消しの唯一の理由だとすると、内定者には何も責任がありません。すると、使用者側が留保している解約権行使の問題ではなく、純粋に会社の業績悪化による解雇が権利の乱用か否かという問題になります。

■解雇許可には4要件

業績悪化や事業縮小など、使用者側の事情による人員削減のための解雇を「整理解雇」と呼び、これが許されるのは過去の判例から確立された4つの要件(1)人員整理の必要性(2)解雇回避努力義務の履行(3)解雇される人の人選の合理性(4)解雇手続きの妥当性――をすべて充足している場合に限られます。

これを内定取り消しにあてはめて考えてみるならば、(1)使用者企業は内定者を取り消さなければならないほど業績が悪化しているかどうか(2)使用者企業は内定者取り消しを回避するために努力を尽くしたかどうか(3)仮に取り消された人と採用された人がいる場合には、なぜあなたが内定取り消しの対象になったのか(4)使用者企業側との間できちんと説明や話し合いを経たうえでの内定取り消しであったか――などが問題になります。

(1)から(3)が行われたかどうかは企業内部のことなのでよくわかりませんが、相談者や報道されている事例では、(4)が実行されないまま突然内定取り消しの通知が届いたという人がほとんどではないかと思います。仮にそうだとすると、整理解雇の4要件を充足しているとは言い難く、今般の内定取り消しは権利の乱用であって無効と判断される可能性が高いと考えます。権利の乱用かどうか以前に、説明や相談なく、通知だけで内定者を切り捨てるのは、到底許されることではありません。

また、一方的な内定取り消しは政府の方針にも反しています。内閣官房から3月13日に「新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた2020年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動及び2019年度卒業・修了予定等の内定者への特段の配慮に関する要請について」という文書が出ています。

それによると(1)採用内定の取り消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講じること(2)やむをえない事情により採用内定の取り消しまたは採用・入職時期の延期を行う場合には、対象者の就職先の確保について最大限の努力を行う――とともに、対象者からの補償等の要求には誠意を持って対応することが要請されています。加藤勝信・厚生労働相も記者会見で、内定取り消しの防止に向けて「採用して休業させるなら雇用調整助成金があるので、雇用は守れる」と述べています。

■法的手続きは「地位確認」と「金銭補償」

相談者はまず、使用者企業に話し合いの機会を設けてもらえるよう連絡すべきでしょう。企業が応じてくれないなら、労働相談センター(東京都の場合であれば「東京都ろうどう110番」)などに相談するのも一つの方法です。

それでも解決しない場合には法的手続きによるほかありません。正攻法は内定を出した企業に対し、「労働契約上の地位」の確認を求める訴訟を提起することです。過去にアナウンサーとして採用されるはずだった女性が内定を取り消され、民放テレビ局を訴えたのはこの類型の訴訟と思われます。女性はその後、テレビ局と和解し、入社しています。

この裁判は時間がかかります。生活費を確保するため「賃金を仮に払え」という仮処分をあわせて申し立てる方法もあります。この手続きは訴訟より進行が早く、数カ月程度で判断されます。

審理が原則3回以内で終わる労働審判という手続きもあります。これも通常の裁判より迅速な解決が期待できます。ただし労働審判では企業が解雇(内定取り消し)を前提に、一定の解決金(金銭補償)を支払う方法での解決がほとんどです。どうしてもこの企業に入社したいという場合には不向きでしょう。

なお、現在、緊急事態宣言が発令されている地域においては裁判の手続きがかなり制限されています。いずれの手段も、残念ながら通常より時間がかかる可能性があります。相談者の場合は新たに就職活動をすることも選択肢に入れたほうがよいかもしれません。

志賀剛一(しが・こういち)
志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年、東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。
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April 16, 2020
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