「家族の理解と法律の保護が重要」と語るサブリナ・シズエ・マッケナさん＝２月、岐阜市長良福光、都ホテル岐阜長良川
◇レズビアン公表のハワイ州最高裁判事・マッケナさんに聞く
ＬＧＢＴと呼ばれる性的少数者をはじめ、多様な性の在り方と私たちはどう向き合えばよいのか。社会には何が必要か。先月、レズビアン（女性の同性愛者）を公表している日系アメリカ人でハワイ州最高裁判事のサブリナ・シズエ・マッケナさん（６２）が岐阜市を訪れた際、マッケナさんに聞いた。
カミングアウトを決意したきっかけは、家庭裁判所長時代に「ＬＧＢＴの子どもたちの自殺未遂率は他の子どもの４倍」と知ったこと。「親から拒絶されるとさらにリスクは高まる。ホームレスの約４割が家から追い出されたＬＧＢＴだとの調査もあった。命の問題だと思った」と語る。
特にアジア系の子どもたちの希望になりたかった。ＬＧＢＴの子どもは白人の場合は８割が親にカミングアウトするが、アジア系は約５割にとどまる調査結果があるといい、「保守的なアジア系の子どもたちと親のために、ある程度社会的地位がある人が告白する必要があると思った」。
◆自殺未遂、異性愛者男性の６倍
日本でも２００１年の調査で、ゲイ（男性の同性愛者）、バイセクシュアル（両性愛者）の男性における自殺未遂経験者の割合は、異性愛者の男性の約６倍だったという結果がある。「わが子から打ち明けられたら、親はショックですぐには受け入れることはできないかもしれない。ただせめて『あなたは何があっても私の子どもだよ』と言葉を掛けてほしい」と話す。
「うちの職場、学校にはＬＧＢＴの人はいない」という声も聞かれるが、さまざまな調査で日本の人口の少なくとも数％はＬＧＢＴ層だとされている。「『いない』というのはあり得ない。だからこそ日頃から性的指向や性差のうわさ話や陰口はやめて、打ち明けやすい環境をつくることが大切」と強調する。
家族や周囲の理解とともに大事なのが、性的少数者の法的な保護だという。マッケナさんの場合は、１９９１年にハワイ州法「雇用差別禁止法」が成立したことが公表の後押しになった。日本でも昨年４月に東京都が全国に先駆けて、性的指向などを理由とした差別を禁止する都条例を施行した。
日本では同性カップルの婚姻は認められていないため、通常の夫婦ならできる県営住宅の申し込みや、病院で手術の同意ができないなどの不利益が生じている。そこで対応策として全国の３４自治体が、カップルを公認する「パートナーシップ制度」を導入している。
県内では飛騨市が条例案を議会に上程し、昨年３月に可決。だが運用については「準備が整っていない」として付帯決議が付き、開始時期を延期している。自治体が権利保障のための施策に積極的に乗り出す一方、社会の価値観の変化に戸惑う人々がいることが明らかになった形だ。
◆法整備が偏見払拭を促す
マッケナさんは「法律で保護されたため多くの当事者が公表し、結果的に社会の偏見も払拭（ふっしょく）された。立法が社会の理解を促す。それがアメリカが経験したこと」と指摘する。
当事者の思いも複雑で「目立たずに生きていきたい」という声もある。「私も昔は隠れていた。社会的地位を得て初めて公表できた。だから、笑われたりばかにされたりしながらも前に出て主張してきた"異端な"人たちを尊敬すべきだと思っている」
昨年にアジアで初めて同性婚の権利を保障する特別法が施行された台湾では、ゲイの祁家威（きかい）さんが３０年以上、奇抜な服装で街頭に立ち続けた。「私たちがさまざまな権利を得ているのも勇敢な運動家たちがいたおかげ」と話す。
「本当は多くの当事者がオープンに生きられる社会を望んでいるが、そんな社会が想像できないだけかもしれない」と推測する。高校生の頃まで、米国の精神医学会の診断マニュアルで同性愛は精神障害とされていたため、自身も「自分がレズビアンと気付き孤独だった。子どもも持てないと思った」という。
現在アメリカでは全州で同性婚は合法。マッケナさんとパートナーは精子バンクを利用し、３人の子どもを出産した。娘が小学生のときにはレズビアンカップルの両親が１クラスに４組いるなど、ハワイではＬＧＢＴの家庭の存在は当たり前になりつつあるという。「こういう生き方もできるのだと知ってほしい。日本でも実現することは可能だと思っている」と語る。
サブリナ・シズエ・マッケナ 東京都出身。１６歳で米軍横田基地内のアメリカンスクールを卒業後、米ハワイ大に進学。同大ロースクールを修了し、ハワイ州で弁護士登録。２０１１年２月に現職に就き、メディアで同性愛者であることを公表。パートナーと３人の子どもがいる。
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March 09, 2020 at 07:30AM
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